KDDIと描く、「液浸」データセンターの未来予想図
KDDI株式会社
ソリューション事業本部 DX推進本部 プラットフォーム技術部 エキスパート
加藤 真人Masato Kato
「au」のブランドで知られる、大手電気通信事業者であるKDDI株式会社 (以下、KDDI) にて、法人向けクラウドプラットフォームサービスに提供する設備の設計に従事。現在は液浸スモールデータセンターの普及 / 社会実装に向けてプロジェクト推進を担当。
myProduct株式会社
戦略コンサルタント
川野 典子Noriko Kawano
myProduct株式会社 (以下、マイプロダクト) にて、製造 / 物流業界を中心に、市場調査 / 競合分析を通じて多数の事業創出に貢献。特に、データセンター市場や、冷熱設備 (ヒートポンプ / 冷凍機など) には深い知見を有し、KDDIの液浸プロジェクトでも、中長期ビジョン策定 / PoC (※Proof of Concept:実証実験) 推進をリード。
KDDI × マイプロダクト協業のきっかけ
川野:KDDIとマイプロダクトとは、「液浸スモールデータセンターの実証実験 (参考URL:https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2023/03/06/6597.html)」より協業が始まりました。ただ、それ以前からも、加藤さんとは、Open Compute Project Japan (以下、OCP) のエキスパートとして、多岐に渡るテーマでお力添えいただいておりましたね。
加藤:そうですね、特に、エッジ / 液浸冷却に関してはグローバルを見ても、知見を有する方は少数で、そういった領域で川野さんたちとワクワクするような議論をたくさんしましたね。御社は積極的に新規性のあるテーマでエキスパートを探し、新たな世界観を創られるケースが多く、同じチームのように議論しながら、自分も仮説を作っている感覚がして、とても面白かったです。
川野:おっしゃっていただいたとおり、弊社では幅広い業界のエキスパートと直接のつながり・議論を通じて、深い示唆を導き出すことで差別化を図っています。結果的に、そうしたつながりから潜在顧客の発掘やパートナーリングまで支援できるのも特長で、御社との取組でもお役に立てたかなと思っています。
“液浸コンテナ”という新たな省エネの形
川野:弊社がプロジェクトに参画したことによって、KDDIさんに対してどのような価値をもたらすことができたでしょうか?
加藤:2つあるのかなと考えていまして、一つ目はA) データセンターの超高集約、二つ目はB) コンテナを活かした地方分散です。A) では、既存データセンターでの活用を想定しており、今までは低密度サーバーをいっぱい置いていたのを、液浸の冷却性能によって高密度サーバーへの集約を可能にし、設置面積が減る。KDDIとしては、液浸 / 空冷 / 水冷を組合せ、適材適所で最適なデータセンター運営を実現できればと思っています。
川野:B)では、コンテナを使った可搬性が一つの鍵でしたね。
加藤:そのとおりです。B)では、コンテナ × 液浸が相乗効果を生みました。コンテナは、湿度や埃、塩害など外部変化への耐性が脆弱です。その弱みを、サーバーを沈めてしまう液浸がカバーして、うまく可搬性を担保するスモールデータセンターが実現できました。今後は小さなデータセンターを地方に分散させていけるといいですよね。やはり、発電した場所のそばで電力を消費するというのは大きなメリットになるので。
川野:送電ロスがないということですね。
加藤:そうです。あとはモジュール化された「液浸コンテナ」データセンターというのは、エンジニアが少ないエリアにおいて、導入ハードルが下がるという特性もあります。お客さまと実際に話をしている中で、「データセンターを入れたいんだけど、エンジニアがいないんだよね」という声をよく聞きます。
川野:他業界でも、分散化 / 拡張性のスピードが重要になっていて、ヒトに依存しないモジュール設備の導入が伸びていますよね。
加藤:そうですよね。また、今回の実証実験を通じて、サーバー冷却のために消費される電力を94%削減 (※PUE値1.7 のデータセンターの総電力と比較した場合) できたわけですが、液浸冷却装置など設備自身のスペックもさることながら、一番大きいのはIT / ファシリティサイドが連携したエンジニアリングを実現できたことだと思っています。これまでは、サーバー / ストレージなどITが必要な冷却能力をファシリティサイドに要求し、その要求に基づいてファシリティサイドは冷却設備を手配してきました。
川野:ウォーターフォールになっていて、アジャイルではなかったということでしょうか。
加藤:そうです。ITサイドは冷却能力として最大値をファシリティサイドに要求して、そこに合わせて手配する形で、そこに多くのエネルギーの無駄が生じていました。なので今回は、ITの稼働に応じて、冷却設備を制御する仕組みを入れて、ダイナミックなシステムを構築しました。それが、実証実験の成功に大きく寄与しています。これは、サーバーをオイルに沈める液浸だからこそ、冷却空間を制御しやすかったことも功を奏しています。
川野:擦り合わせ部分を統合することにより、オーバースペックを防ぐということですね。他の業界でも聞いたことがあります。例えば、カーエアコンでも、「ケイレツ (※垂直統合型の企業間関係) 」のように垂直統合することで個別設備のオーバースペックを防ぎ、競争優位性を構築していました。
加藤:今後は、データセンターでもIT / ファシリティの統合が競争優位性に繋がるとみています。
未来予想図を手に、描く事業計画
川野:弊社がプロジェクトに参画したことによって、KDDIさんに対してどのような価値をもたらすことができたでしょうか?
加藤:実証実験の座組 / スケジュールの設計や、社会実装に向けた事業検討までご支援くださったことは非常に助かりました。実際に、検討いただいた市場調査は今でも活用し続けています。分析の仕方であったり、市場の見方であったり、そういうのがきれいにコンパクトにまとめられていて。一番ありがたいなと思ったのは、液浸をやっているプロジェクトメンバーは、「液浸をやりたい、液浸は良いものだ」ということに執着してしまうんです。でも、マイプロダクトさんの幅広い視点から、「悪いところはここ、今は技術的に未成熟。だから何年後をターゲットにしなさい」という大きな方針を書いていただき、プロジェクトで議論が起きるたび、「これを出せばいいんじゃないの?」と思うくらいです。
川野:そう言っていただけると非常にうれしいですね。
加藤:もう何十回も読みましたよ (笑)。読めば読むほど、マイプロダクトさんが言いたかったことが分かってくるんです。最初は「何でこんなこと言っているんだろう?」と思ったりもしましたが、プロジェクトを進めていくうちに自分たちだけじゃない世界というのが見えてくるじゃないですか。その時に、仰っていたとおりだったなというのが見えてくるんです。未来を予測していたかというような資料でしたね。自分たちが見えていない世界をしっかり見せてくれるという意味では、御社と実施した市場検討は、今後の事業方針を決めていく上で大きなものになりました。
川野:今後弊社にさらに期待される部分はどのようなところにありますか?
加藤:液浸技術は当社だけで閉じるつもりはございませんので、いろいろなデータセンターやIT事業者に活用していただきたいと考えています。それを進めていく上で、ターゲット顧客の選定 / 顧客への訴求価値の精緻化含め、事業化検討の部分で、液浸コンテナ普及に向けてご協力いただければなと思っています。
川野:そうですね、弊社はまだ顕在化していない新規市場の探索に強みがあります。また、今回の実証実験のように、顧客候補の発掘 / パートナーリング実現でも支援できたらと思います。
加藤:ぜひお願いします。御社の地域共創の取組とも相性が良いと思いますし、今後のさらなる協業に期待しております。
※掲載内容・所属・役職などは2023年3月のインタビュー時点のものです
- 会社名
- KDDI株式会社
- 所在地
- 東京都千代田区飯田橋3丁目10番10号 ガーデンエアタワー
- 設立
- 1984年
- 事業内容
- 電気通信事業